あなたは普段、『ドラッグストア』って使っていますか?食品や日用品が安く売られていることもあり、こまめに利用している人も多いのではないでしょうか?
ところで、ドラッグストアってどうしてスーパーやコンビニよりもはるかに安い値段で、様々なものを販売できるのでしょうか。中には「赤字では?」と思うほど安売りしているところもあります。
ですが、ドラッグストアのマーケティング戦略を調べていると、あの安売りには非常に合理的な『ある理由』が隠されていたのです。
今回は、ドラッグストアのマーケティング戦略を学びながら、それを自分のビジネスに活用する方法をご紹介します。ぜひ最後まで読んでみてください。
- コンビニよりも多い薬局の店舗数
- 食品の粗利率を下げて集客をし、粗利率の高い医療品で儲ける仕組み
- 会社によってもドラッグストアのマーケティング戦略は異なる
薬局の店舗数がコンビニを超えた!
地域によってはちょっと歩くたびにお店が乱立しているコンビニですが、実はそのコンビニ以上に店舗数が多いのが『薬局』です。
厚生労働省が公開している『平成29年度衛生行政報告例の概況 薬事関係』によると、調査時点での薬局数は59,138施設となっています。
一方で一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会の調べによると、2019年7月時点でのコンビニの総店舗数は、55,724店舗です。
店舗数の比較 | 薬局 | コンビニ |
店舗数 | 59,138店舗 | 55,724店舗 |
今やコンビニ以上に店舗が展開されている薬局では、他店に負けずに売上を上げるためのマーケティング戦略が念入りに仕組み化されています。
同時に、これだけ店舗数が増えたが故の人材確保の問題や、他店との差別化戦略といった問題も抱えているのが現状です。
このような身近なマーケティングを学ぶことで、自分のブログやビジネスにも活かせる戦略を見つけることができるので、ぜひこの先の内容も読み進めていってください。
ドラッグストアと薬局の違いは?
薬局と聞くと、風邪を引いた時などに病院で処方箋をもらって薬を受け取るだけの場所で、普段はあまり利用しないという人もいるかと思います。
ですが、薬局が併設されたドラッグストアで、日用品や食料品をよく買いに行くという人は多いのではないでしょうか?
ここではより身近な例として、『ドラッグストア』のマーケティングの焦点を当てたいので、まずは『ドラッグストア』と『薬局』の主な違いをさらっと押さえておきましょう。
薬局とは?
薬局は薬事法によって、薬剤師が販売などのために調剤を行う場所と定められています。また、医療法では病院などと同じ医療機関とも位置付けられています。
薬局として営業を行うには、都道府県知事の許可が必要なため、許可を受けていない店舗が『薬局』という看板を使うことはできません。
薬局では、全ての薬局医療品や一般医療品を扱える上、薬指導などの業務も許可されています。
ドラッグストアとは?
ドラッグストアに関する法律はなく、一般的に『一般用医薬品、日用品、食品』などを販売するお店とされています。基本的には『薬局』ではないため、調剤や薬局医療品の販売などはできません。
ただし、店舗によってはお店に薬剤師を配置し、ドラッグストア兼調剤薬局として営業をしているお店もあり、その店舗では処方箋の受付や調剤を行うことができます。
よって、薬局としての業務が可能なドラッグストアもありますが、全てのドラッグストアが薬局と同じ役割を持つわけではないことを覚えておきましょう。
ちなみに、ウェルシアHDやスギHD(※HD=ホールディングスの略)は、調剤を軸に医療や介護事業を強化しているため、薬局を併設している店舗が多いです。
なぜ食料品が安いのか?ドラッグストアのマーケティングの仕組み
ちょっとした日用品や食料品を買いに行く際、同じ商品でも販売価格の違いから、コンビニよりもドラッグストアを利用する人は多いかと思います。
なかには、「こんな値段で販売して大丈夫なの?」と思うほど、安売りされている商品もありますよね。その背景には、ドラッグストアのマーケティングの仕組みがありました。
以下は2019年9月14日発刊の週刊ダイヤモンド第107巻35号に記載されていた各お店と商品の種類の粗利率です。
ドラッグストア | 食品 | 医療品 | 化粧品 |
粗利率 | 15.1% | 42.3% | 32.6% |
コンビニエンスストア | 日配食品(弁当、おにぎり等) | 加工食品(お菓子等) | 非食品(洗剤、文房具等) |
粗利率 | 33.4% | 39.5% | 20.5% |
総合スーパー | 食品 | 衣料 | 住居(家具、洗剤等) |
粗利率 | 27.6% | 35.3% | 30.8% |
上記の表を見ると、主な食料品に関してドラッグストアでは圧倒的に低い粗利率で販売をしていることがわかります。一方で、粗利率が最も高いのもドラッグストアの医療品です。
つまりドラッグストアは、安い食料品でお客さんを集めた上で粗利率の高い医療品を販売することで、トータルの売上を増やしています。
食品などを主な収入源としているコンビニや総合スーパーとは違い、ドラッグストアでは食品での売上には期待していないため、強気な価格設定ができるということですね。
このように、ライバルとは違う土俵で売上を立てるというのは、私たちのビジネスにもぜひ活かしたい戦略です。
ドラッグストアの利用者アンケートによると…
2019年の3月22日〜4月5日の期間で、インターワイヤード株式会社によるドラッグストアの利用者を対象とした調査が行われました。
3,904名を対象に行われた調査によると、以下のようなことが明らかになりました。
- ドラッグストアを週1以上使う人の割合は28,3%。
- 調査対象者の7割が市販薬を「ドラッグストアで買う」と回答。
- お菓子や飲料の購入に当たっては、スーパーを利用する人が最も多い。
- ドラッグストアを利用する理由の第1位は、価格が安いから。
市販薬などは医療品に含まれるため、粗利率の一番高い医療品をドラッグストアで購入する人が多いという点は、ドラッグストアのマーケティング戦略が成功している証拠と言えるでしょう。
一方で、意外なことに『お菓子・清涼飲料水』などは、価格が安いドラッグストアよりも、スーパーやコンビニの方が利用率が高いこともわかっています。
これは推測ですが、お菓子や飲料はそれ自体が目的というよりも、ついで買いをする人が多いため、スーパーやコンビニの方が利用率が高いからと思われます。
同じドラッグストアでもマーケティングの仕組みは大きく違う
ここまではドラッグストアの一般的なマーケティングとして、「安い食品類でお客さんを集めて、粗利率の高い医療品で儲ける」という戦略を紹介しました。
ところが実は、ドラッグストア各社によっても、マーケティングや売上の仕組みがそれぞれ大きく違うのです。それぞれのドラッグストアの戦略の違いは以下の通りです。
この画像を見ると、ドラッグストアは大きく分けて『医療強化型』『化粧品強化型』『食品・ディスカウント強化型』という3つの戦略があることがわかります。
- 医療強化型:高齢者向けの医療・介護領域に力を入れたドラッグストア
- 化粧品強化型:若い女性をターゲットにしたビューティー路線に力を入れたドラッグストア
- 食品・ディスカウント強化型:ファミリー層をターゲットとした食品強化路線のドラッグストア
これらの戦略の違いが具体的にどのような売上構成比の違いを生み出すのかを、もう少し具体的に見ていきましょう。
ドラッグストアの差別化戦略
ここでは『化粧品強化型』の戦略をとるマツモトキヨシHDと、『食品・ディスカウント強化型』の戦略をとるコスモス薬品での売上高構成比の違いを見ていきます。
品目別の売上高構成比 | マツモトキヨシHD (化粧品強化型) |
コスモス薬品 (食品・ディスカウント強化型) |
医薬品 | 31% | 16% |
化粧品 | 40% | 11% |
食品 | 9% | 56% |
雑貨 | 17% | 16% |
その他 | 3% | 1% |
上の表を見れば分かる通り、それぞれ自社が掲げる戦略の中心となるジャンルの売上割合が圧倒的に高いことがわかります。
マツモトキヨシの場合、売上割合の多い化粧品で粗利率31.5%、医薬品で粗利率40.7%となっており、粗利率の高いジャンルを中心に売上を上げる戦略を取っています。
一方で、コスモス薬品は粗利率の高い医薬品にこだわらずに、食品類を中心に大きな売上を叩き出しています。どちらかというと、薄利多売の戦略を取っていると見ることができます。
また、高齢者が多くなるこれからの時代を見据えて、医療分野を武器とした『医療強化型』を進める企業として、ウエルシアHDやスギHDなどがあります。
それぞれの会社なりに今後の展開を予測して、差別化した戦略を取っているのは面白いですね。
ドラッグストアのマーケティングの仕組みを維持するための問題点
企業によって方向性の違いはあるものの、基本的に粗利率の高い『医療品』を売上の柱にするのがドラッグストアの基本戦術であることは前述しました。
そこで必要になってくるのが『薬剤師』の確保です。特に、ドラッグストア内に調剤薬局を併設している企業では、薬剤師の確保が急務となっています。
ただし、薬学部生の就職先ランキングでは『薬局』『病院・診療所』『医薬品関連企業』となっており、ドラッグストアへの就職率は9.7%にとどまります。
ドラッグストアの中には、初任給を30万円以上にしたり、奨学金返済の援助を行う企業もあるなど、人材争奪戦の激しさが伺えます。
ドラッグストアは一般的に社員が『登録販売者』と呼ばれる資格を取得して、営業をしているところが大半です。
ただし、登録販売者には、病院などで処方されることもある第一類医薬品(リアップ、ロキソニン、ガスター10など)の販売は認められていません。
第一類医薬品を販売するためには、店舗に薬剤師を配置しなければいけません。だからこそ、調剤設備のないドラッグストアでも積極的に薬剤師を求めているといった背景があります。
ドラッグストアのマーケティングの仕組みを自分のビジネスに応用
ここまで、ドラッグストアの主なマーケティング戦略について紹介してきましたが、この戦略は様々なビジネスにも応用することができます。
例えば、ドラッグストア(=薬屋)だからと言って、薬だけを販売しているわけではありません。売上につながるコンテンツと集客用のコンテンツを別に用意することもできますよね。
また、基本的には同じ戦略をとりながらも、ライバルと少しずらした市場で戦うという差別化戦略は、ドラッグストアに限らずビジネスをする上で絶対に押さえておきたいポイントです。
大手のドラッグストアの売上は何千億円単位とかなり規模が大きくそっくり真似することはできませんが、その売上額の背景にあるマーケティング戦略にはたくさんの学ぶどころがあります。
ドラッグストアのマーケティングの仕組みを体感
いつも何気なく使っているドラッグストアですが、綿密に練り上げられたマーケティングや差別化戦略を知ってから利用すると、また別の見方ができるようになるのではないでしょうか?
例えば、僕の家の近くにあるクリエイトSDでは、医療品の品揃えがやや少なく、食料品・日用品の商品棚の割合が多いのですが、その背景には『食品・ディスカウント強化型』の戦略があるのですね。
このように、ドラッグストアの運営会社が『どんな戦略を使っているか』を考えながらお店を見回すと、今まで意識できなかった様々な気づきが得られるようになります。
ぜひ今度、ドラッグストアに立ち寄った際は、そのお店が『医療品』『化粧品』『食品・ディスカウント』のうちどの強化戦略を使っているのかを考えてみてください。
ドラッグストアに学ぶマーケティングの仕組みづくり まとめ
今回は、身近にあるドラッグストアのマーケティング戦略を学びながら、自分のビジネスにも活かせる方法があるのではないかという切り口でご紹介しました。
普段何気なく使っているお店であっても、少し視点を変えてマーケッター視点でみて見ると、様々な発見があります。
たまには、自分のビジネスに関連する領域だけではなく、全く別の業種で使われているアイデアを取り入れてみてはいかがでしょうか?